令和7年11月19日に所得税法施行令の一部を改正する政令が公布され、マイカー・自転車通勤者に支給する通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。この改正は、令和7年11月20日に施行され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から適用されます。
その結果、令和7年分の年末調整では、「通勤手当」「非課税限度額」「改正」に対応した追加の事務が必要になる企業があります。※1
この記事では、企業の人事・給与担当者が、今回の通勤手当の非課税限度額の改正に対して、令和7年分の年末調整で具体的に何をすればよいのかを、実務の流れに沿って解説します。
※1 国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正について」および関連資料より要約。
1.今回の「通勤手当の非課税限度額の改正」の概要
1-1.どの通勤手当が対象になるのか
今回の改正で対象となるのは、次の通勤手当です。
- 自動車・バイク・自転車などの交通用具で通勤している従業員に支給する通勤手当(いわゆるマイカー通勤手当 等)
一方、次の通勤手当については非課税限度額の改正はありません。
- 電車・バスなど公共交通機関のみで通勤する従業員への通勤手当(定期代など)
- 有料道路を利用する通勤手当(最高15万円/月の枠は従来どおり)
つまり、本改正はマイカー・自転車通勤者の通勤手当に限られます。電車・バス通勤のみの従業員については、「通勤手当の非課税限度額の改正」に伴う年末調整での追加対応は不要です。
1-2.いつから適用されるのか(施行日と適用対象)
国税庁の資料によると、改正内容は次のように整理されています。
- 公布日:令和7年11月19日
- 施行日:令和7年11月20日
- 適用対象:令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当
(同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するもの等は除外)
ポイントは「実際の支給日」だけでなく、「支払われるべき日」で判断されることです。例えば、次のような扱いになります。
- 令和7年3月分通勤手当を4月10日に支給する場合:改正後限度額の対象(支払われるべき日が4月以降)
- 令和7年4月分通勤手当を3月末に前払いした場合:旧限度額の対象(支払われるべき日が3月以前)
この「支払われるべき日」を誤認すると、どの通勤手当に改正後の非課税限度額を適用すべきかがズレてしまうため、就業規則や賃金規程上の「支給日」の定めも合わせて確認しておく必要があります。
1-3.改正前後の通勤手当の非課税限度額(マイカー等)
マイカー・自転車通勤者に対する「通勤手当の非課税限度額」は、片道距離に応じて段階的に定められています。今回の改正では、10km以上の区分で限度額が引き上げられました。
| 片道の通勤距離 | 改正前(月額) | 改正後(月額) | 上げ幅 |
|---|---|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 | 全額課税 | 変更なし |
| 2km以上 10km未満 | 4,200円 | 4,200円 | 変更なし |
| 10km以上 15km未満 | 7,100円 | 7,300円 | +200円 |
| 15km以上 25km未満 | 12,900円 | 13,500円 | +600円 |
| 25km以上 35km未満 | 18,700円 | 19,700円 | +1,000円 |
| 35km以上 45km未満 | 24,400円 | 25,900円 | +1,500円 |
| 45km以上 55km未満 | 28,000円 | 32,300円 | +4,300円 |
| 55km以上 | 31,600円 | 38,700円 | +7,100円 |
たとえば、片道55km以上の従業員は、非課税限度額が31,600円 → 38,700円に引き上げられています。
2.どの従業員が「今回の改正」の影響を受けるのか
2-1.影響を受ける可能性が高い従業員
令和7年分の年末調整において、今回の通勤手当 非課税限度額 改正により、追加の精算や確認が必要となるのは、概ね次の条件をすべて満たす従業員です。
- マイカー・バイク・自転車など、交通用具で通勤している
- 片道の通勤距離が 10km以上
- 令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について、旧・非課税限度額を超える通勤手当を支給していた
この3つを満たす場合、「本来は非課税にできたはずの通勤手当」を課税してしまっている可能性があり、令和7年分の年末調整において、課税済み通勤手当の一部を「非課税通勤手当」として差し引き、過納税額を精算する必要が出てきます。
2-2.反対に「今回の改正による追加事務負担が原則ない」従業員
これに対し、次のような従業員については、今回の通勤手当の非課税限度額の改正による追加の事務負担や影響は原則ありません。
- 電車・バスなどの公共交通機関のみを利用して通勤している従業員(公共交通機関の非課税限度額15万円に変更なし)
- 片道の通勤距離が10km未満で、もともと旧限度額を超えていない従業員
- 就業規則・賃金規程上、通勤手当を旧限度額以内で支給しており、そもそも限度額を超えない設定になっている従業員
これらのケースでは、改正前も改正後も「課税対象となる通勤手当の金額」に差が生じないため、今回の非課税限度額改正に伴う年末調整での追加処理は不要と考えて差し支えありません。
3.令和7年分 年末調整で必要となる対応の全体像
国税庁資料や税務専門サイトでも、今回の通勤手当 非課税限度額 改正では、「令和7年分の年末調整で対応が必要となることがある」と明記されています。
企業の実務として整理すると、次の3ステップで対応するイメージです。
- 影響を受ける従業員の洗い出し
- 新旧限度額の差額(新たに非課税となる通勤手当)の計算
- 給与システム上での再計算と年末調整への反映
3-1.対象となる従業員の洗い出し
まずは、次の条件に該当する従業員が社内にどれだけいるかを把握します。
- マイカー・自転車等で通勤している従業員
- 片道通勤距離が10km以上の従業員
- 令和7年4月以後「支払われるべき」通勤手当において、旧限度額を超えて通勤手当を支給していた従業員
就業規則・賃金規程や通勤申請書、給与システムの通勤手当マスタなどから、通勤距離、通勤手当額、支給区分を確認するのが現実的です。
3-2.「新たに非課税となる通勤手当額」の計算
次に、対象となった従業員ごとに、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について、旧限度額で課税していた金額のうち、新限度額の範囲内に収まる部分を合計します。
国税庁の「年末調整で精算する際の源泉徴収簿の記載例」では、次のようなイメージで説明されています。
- 旧限度額28,000円、新限度額32,300円
- 毎月30,000円のマイカー通勤手当を支給
- 令和7年4月~10月(7か月分)について、旧限度額超過分2,000円/月を課税扱いとしていた
この場合、
- 新たに非課税となる通勤手当:2,000円 × 7か月 = 14,000円
となり、この14,000円を「非課税となる通勤手当」として源泉徴収簿上で総支給額から控除し、年末調整で過納税額を精算します。
3-3.源泉徴収簿・源泉徴収票への反映
国税庁の記載例では、年末調整で精算する際に、次のような処理を行うよう案内されています。
- 源泉徴収簿の余白に「非課税となる通勤手当 ○○円(計算根拠)」と記載
- 源泉徴収簿の「給料・手当等①」を記入する際に、
年間の総支給額から「新たに非課税となった通勤手当額」を差し引いた金額を用いる - この修正後の金額をもとに年末調整の年税額を再計算し、過納税額を精算
後述のとおり、この具体的な再計算および源泉徴収簿への反映は、給与計算システム側での対応が必須となります。
4.中途退職者・転籍者の通勤手当と源泉徴収票
4-1.「年末調整できない退職者」はどう扱うか
国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」によると、年末調整で精算できない人(年の中途退職者など)については、原則として確定申告で精算するとされています。
ただし、今回の改正により新たに非課税となる通勤手当がある退職者については、別途注意が必要です。
4-2.新たに非課税となる金額がある退職者の源泉徴収票
国税庁のQ&A(Q16)の解説や、各種専門サイトの整理によると、概ね次の考え方が示されています。
- マイカー通勤者などについて、旧限度額を超えて課税していた通勤手当の一部が、改正後限度額により新たに非課税となる場合には、
- その退職者について、「支払金額」欄を訂正し、「摘要」欄に「再交付」と記載した源泉徴収票を再作成し、再度交付する必要がある
そのうえで、退職者本人は確定申告により精算することになります(年末調整の機会がないため)。
したがって、人事・給与担当者としては、
- 対象となる退職者がいるかどうかの確認
- 該当する場合の源泉徴収票の再作成・再交付(摘要に「再交付」の記載)
- 退職者への確定申告の案内
といったステップをあらかじめ整理しておくことが重要です。
5.賃金規程・就業規則の見直しポイント
5-1.「非課税限度額まで支給」としている場合
就業規則や賃金規程で、「マイカー通勤手当は非課税限度額の範囲内で支給する」と定めているケースでは、今回の通勤手当 非課税限度額 改正により、自動的に支給額の上限を引き上げる必要が生じる場合があります。
具体的には、
- 賃金規程上「通勤手当:税法上の非課税限度額の範囲内」としているか
- あるいは「通勤手当:別表○のとおり」としており、その別表が旧限度額ベースで作成されていないか
といった点を確認し、必要に応じて賃金規程の改定や、従業員への変更内容の周知を検討することが求められます。
5-2.あえて「支給額は据え置き」とする選択肢もあり得る
なお、法令上は「非課税限度額」が引き上げられたにすぎず、企業に対して通勤手当の支給額そのものの引上げを強制するものではありません。
したがって、
- 通勤手当の支給額は従来どおり据え置き
- ただし、「現行支給額 < 改正後の非課税限度額」の範囲であれば、全額非課税
という選択も可能です。もっとも、燃料費高騰などの実情を踏まえ、通勤手当の支給額自体を見直すかどうかは、労使間の協議も含めて検討する余地があります。
6.給与システム・クラウド年末調整サービスの対応
6-1.今回の改正は「給与システム側での対応」が必須
ここからは、クラウド年末調整サービスのベンダー視点も踏まえた、システム対応の整理です。
今回の通勤手当 非課税限度額 改正への実務対応において、非課税限度額の判定や過去分の再計算を行う主役は「給与計算システム」です。
- 給与計算システム:通勤手当の支給額管理、課税/非課税判定、源泉徴収簿作成、年末調整後の年税額計算などを担う
- クラウド年末調整サービス:控除申告書の回収・チェック、控除計算、基礎控除申告書の給与収入欄への金額反映などを担う
通勤手当の非課税限度額が改正されたからといって、年末調整サービス側で通勤手当の課税/非課税を再判定できるわけではありません。あくまで、給与システム側で「正しい給与収入(非課税通勤手当控除後)」を確定させ、その結果を年末調整サービスに渡すという役割分担になります。
6-2.「年末調整サービス側では実質、今年はやれることがほぼない」理由
令和7年11月20日時点では、ほとんどの企業がすでに、
- クラウド年末調整サービスへの従業員データ取り込み
- 扶養控除等申告書・基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・保険料控除申告書・住宅借入金控除申告書などの提出依頼
を完了しており、年末調整ワークフローは既に稼働中です。
そのため、
- クラウド年末調整サービス側で、改めて通勤手当の非課税限度額を判定し直す
- 4月以降支給分の課税通勤手当の差額を自動計算する
といった処理を今年の年末調整フェーズで新たに実装・運用するのは現実的ではありません。
現実的な対応としては、
- 給与システム側で非課税限度額の改正に対応した再計算を行い、
- その結果を基に、クラウド年末調整サービス側に正しい給与収入額を反映させて、基礎控除額や配偶者控除額等に変更が生じないか確認する
という流れになります。
6-3.大手給与システム各社の対応状況(例)
2025年11月時点で、大手給与システム各社は次のような対応方針を公表しています。
- 給与奉行シリーズ(OBC)
「通勤手当に係る所得税の非課税限度額の改正」に対応する予定であり、対象サービス(給与奉行クラウド、給与奉行11など)で改正対応を行う旨を案内。詳細は追って公表。 - PCA 給与シリーズ
通勤手当の非課税限度額改正に対応するための専用ツールを準備中であり、具体的な操作手順を指定日(11月27日予定)に公表すると案内。 - その他の主要給与システム
TKC、マネーフォワードなども、国税庁の公表内容に基づき、順次システム対応やQ&Aを公開しています。
この記事をお読みの人事担当者としては、
- 自社が利用している給与システムのベンダーサイトで、通勤手当 非課税限度額 改正への対応状況を確認
- アップデートの提供タイミングと、「過去分の通勤手当の差額精算」をどこまでシステムでカバーできるかを確認
しておくことが重要です。
6-4.クラウド年末調整サービス側での役割整理
クラウド年末調整サービス(当社年調ヘルパー含む)の役割は、次のように整理できます。
● クラウド年末調整サービスで「できること」
- 従業員からの各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、保険料控除申告書、住宅借入金控除申告書など)の電子回収・チェック
- 控除額の自動計算
- 給与システムが再計算した「非課税通勤手当控除後の給与収入額」を基礎控除申告書等に反映
● クラウド年末調整サービスでは「できないこと」
- 通勤手当の課税/非課税判定そのもの
- 4月以降支給分の通勤手当について、旧限度額超過分の自動抽出・差額精算
- 源泉徴収簿の「給料・手当等①」の再計算(これは給与システムの領域)
したがって、今回の通勤手当 非課税限度額 改正への実務対応は「給与システムが主役」「年末調整クラウドは結果を受け取る側」と整理しておくと、社内の認識齟齬を防ぎやすくなります。
7.人事・給与担当者が今すぐ確認すべきチェックリスト
最後に、今回の通勤手当 非課税限度額 改正に対して、人事・給与担当者が「今年の年末調整(令和7年分)」で確認しておくべき事項をチェックリスト形式でまとめます。
7-1.就業規則・賃金規程の確認
- マイカー・自転車通勤者向けの通勤手当の規定が、「非課税限度額まで支給」となっているか
- 別表で通勤距離ごとの金額を定めている場合、旧限度額ベースになっていないか
- 今回の改正を踏まえて、支給額の改定を行うか否か(据え置きも含めた方針)
7-2.対象従業員の洗い出し
- マイカー・自転車通勤者の一覧を抽出できるか
- 片道通勤距離が10km以上の従業員を特定できるか
- 令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について、旧限度額を超えて支給していた従業員がいるか
7-3.給与システムの改正対応状況
- 自社の給与システム(例:給与奉行、PCA給与 等)が、改正後の非課税限度額テーブルに対応済みか
- 4月以降分の通勤手当について、新旧限度額の差額を自動計算できるツールや機能が提供されるか
- 改正対応のリリース予定日・操作マニュアルの入手状況
7-4.年末調整クラウドとのデータ連携
- 給与システムで再計算した結果を、年末調整クラウドに再取り込みまたは更新できるか
- 基礎控除申告書の「給与収入」欄に、非課税通勤手当控除後の金額が反映されるか
7-5.退職者・転籍者対応
- 令和7年中途退職者のうち、マイカー通勤+10km以上+旧限度額超過に該当する者がいるか
- 新たに非課税となる通勤手当がある退職者について、源泉徴収票の訂正再交付が必要かどうか(摘要欄に「再交付」)
- 該当者への確定申告案内のフローを整備しているか
8.まとめ ─「通勤手当 × 非課税限度額 × 改正」は給与システムが主役、年末調整クラウドは“正しい数字”を受け取る側
今回の令和7年 通勤手当の非課税限度額改正は、
- マイカー等で通勤する従業員(片道10km以上)がいる企業にとっては、2025年(令和7年)分年末調整の実務に直結するテーマ
- 電車・バスのみの通勤者や、旧限度額以内でしか支給していない企業にとっては、今回の改正に伴う追加事務負担は原則なし
という二面性を持っています。
そして、実務の要点をひとことで言うと、
「通勤手当 非課税限度額 改正への対応は給与システムが主役。
年末調整クラウドは、給与システムが再計算した“正しい給与収入額”を受け取る役割」
です。
すでに多くの企業では年末調整クラウドへのデータ取り込みを完了しているため、今から新たにクラウド年末調整サービス側で何か特別な操作をする余地はほとんどありません。その分、
- 自社が利用している給与システムの改正対応状況の確認
- 対象従業員の洗い出しと差額計算ロジックの理解
- 退職者・転籍者など年末調整の対象外となるケースへの源泉徴収票再交付と確定申告案内
にリソースを集中させることが、ミスなく効率的な年末調整につながります。
貴社のクラウド年末調整サービスをご利用いただいているお客様に対しては、
- 本記事で整理した内容を社内共有用メモとして活用いただく
- あわせて、給与システムベンダー各社の対応情報を随時チェックいただく
ことで、「通勤手当」「非課税限度額」「改正」というキーワードに振り回されることなく、落ち着いて令和7年分の年末調整に臨んでいただけるはずです。
※本記事の内容は、令和7年11月25日現在公表されている国税庁資料等に基づいており、今後、追加の通達・Q&A等により実務上の取り扱いが補足される可能性があります。最新情報は必ず国税庁ホームページ等でご確認ください。
